この文書は、家庭用ゲーム機のソフトをサラウンド(マルチ チャンネル音声、立体音響)で楽しむ方法について記したものです。説明は、掲載している各製品の仕様に基づいて記載していますが、特定のゲーム機と接続してサラウンド環境が実現できるかは、必ずメーカーに確認して下さい。
一般的なテレビに内蔵されている前方左右のスピーカーによる音声を「ステレオ音声」という。従来のテレビゲームや通常のテレビ放送、音楽の再生では、ステレオ音声が一般的である。
一方、DVD・BDビデオやテレビゲームなどで、自身の周囲から聞こえる音を再現して臨場感を高めるために、ステレオに加えて背後からの音や低音を追加した音声を「サラウンド音声」(または「マルチチャンネル音声」)という。
サラウンドにおける「チャンネル」は「スピーカーの数」と考えるとわかりやすい。配置するスピーカーが多いほど音の方向がわかりやすくなる。
チャンネル(スピーカーの数)は一般的に「2ch」や「5.1ch」と表記される。表記に点がある場合、点で区切った左側が通常のスピーカーの数、右側が重低音のみを担当するサブウーファーの数を示す。つまり「5.1ch」は、通常のスピーカーが5つ、サブウーファーが1つという意味である(構成を示した表記であり、小数ではない)。
略称 | チャンネル名 | 総チャンネル数に対する役割 | |
---|---|---|---|
2ch(ステレオ) | 5.1ch(サラウンド) | ||
L | Left | 前の左側 | |
R | Right | 前の右側 | |
C | Center | - | 前の中央 |
SL | Surround Left | - | 後ろの左側 |
SR | Surround Right | - | 後ろの右側 |
LFE | Low Frequency Effect | - | 低音のみ |
ゲーム機で用いられるサラウンドは主に以下4つのうち、いずれか(もしくは複数)の方式が採用されている。ただし大抵のAVアンプ等は、いずれにも対応していることが多いため、違いを気にする必要はあまりない。
規格名 | 概要 |
---|---|
Dolby Pro Logic Ⅱ (ドルビー・プロロジック・ツー) | ドルビー社のサラウンド技術のひとつ。通称「PLⅡ」。アナログのステレオ接続でも、対応AVアンプで再生するとサラウンドになる。 |
Dolby Digital (ドルビー・デジタル) | ドルビー社のサラウンド技術のひとつ。デジタル方式の圧縮音声による、最も一般的なサラウンド方式。 |
DTS (ディーティーエス) | DTS社のサラウンド技術のひとつ。デジタル方式の圧縮音声による、Dolby Digitalに次ぐ一般的なサラウンド方式。 |
マルチチャンネルリニアPCM | 非圧縮のデジタル音声。通称「LPCM」。高音質だが、AVアンプ等とはHDMIで直接接続しなければサラウンドにならないことがある。 |
名称 | 形状 | 概要 |
---|---|---|
RCA(ステレオ) | アナログでステレオ音声を伝送する、赤色と白色の接続端子。通常はステレオにしか対応しないが「Dolby Pro Logic Ⅱ」対応のソフトに限り、同規格対応のAVアンプ等に接続することでサラウンドを楽しめる。 | |
HDMI | 現在の一般的なデジタル接続端子。映像と音声を1本のケーブルで伝送できる。ドルビー系やDTS系にすべて対応し、リニアPCMも7.1chまで伝送できるため、サラウンドに最適である。 ARC対応のテレビとAVアンプ等を接続すれば、テレビからの音声入力にも光デジタルと同性能で対応する。 | |
光デジタル | 「S/PDIF」(エスピーディーアイエフ)や「TOS-Link」(トスリンク)と呼ばれる角型プラグが一般的。ドルビー系やDTS系のサラウンドに対応するが、リニアPCMの伝送は2chまでなので要注意。 |
ゲームパッケージや説明書の記載で見分けるのが最も手軽である。ゲームソフトによっては、公式サイトの「よくある質問」などに対応状況が記載されていることがある。
ゲーム機によっては、サラウンド出力ができる接続方法が限られていたり、設定を変更する必要がある。各ゲーム機の説明書を読んで確認すること。
PlayStation 3、同4、Xbox 360、同 Oneはドルビー系とDTS系のサラウンドに対応しているため、ゲーム機をテレビに直接HDMIでつないでおき、テレビとAVアンプ等を光デジタル端子、もしくはARC対応のHDMIで接続することでサラウンドを実現できる。
任天堂のWii U、Nintendo Switchは、ドルビー系やDTS系に対応せず光デジタル出力も無いため、HDMI接続による5.1chのリニアPCMの出力でしかサラウンドを楽しめない。このためテレビではなく、AVアンプ等サラウンド出力を行える機器に直接HDMIで接続する必要がある。
アナログのステレオ接続にしか対応していないNINTENDO64でも『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』や『ドンキーコング64』など、アナログ3.0chの「ドルビーサラウンド」に対応しているタイトルがいくつかある。サラウンド環境があれば、ゲームソフトのサウンド設定で「サラウンド」を選んでみよう。デジタルの5.1chサラウンドほどではないにせよ、ステレオ音声より臨場感の高いサラウンドでゲームを楽しめる。
サラウンドに必要な数のスピーカーと、そのスピーカーをつなぐためのAVアンプを設置する。サラウンドを実現するための一般的な方法である。製品の構成にもよるがおよそ4~10万円以上の費用と設置場所の確保が必要で、設置にも手間がかかるが、自然なサラウンドを素直に体感できるのが大きな利点だ。
サラウンドに必要なスピーカーとAVアンプがセットになっている製品。サラウンド環境構築で最もベーシックな構成である。このタイプの製品は、配線の手間はあるものの、マニュアルを見ながら設置すれば環境が整うのが利点だ。
スピーカーがやや小型の製品では、音質(迫力)に多少難があるおそれもある。ただ薄型テレビの内蔵スピーカーは音質があまりよくないことが多いので、それに比べれば充分な性能でサラウンドを実現できる。
サウンドバーと呼ばれる、薄型テレビの手前に置くタイプのスピーカーは、通常ステレオ音声のみで、サラウンドはバーチャルサラウンドによる対応が一般的である。しかし製品によってはサウンドバーの両端を分離して背後のスピーカー(SL、SR)として配置でき、リアルサラウンドを実現できるものがある。ホームシアターシステムと同様に配線の手間はあるが、比較的省スペースで済むのが利点である。
サウンドバーには、製品によっては対応するワイヤレススピーカーを背面のスピーカー(SL、SR)として増設することで、リアルサラウンド環境を実現できるものがある。ワイヤレスによる音声の遅延がないか検証が必要だが、リアルサラウンド環境のひとつとして検討しても良いだろう。
ただし、SL、SRはワイヤレスとなるものの電源の接続が必要になる点には注意したい。
AVアンプとスピーカーを組み合わせた、最も本格的な方法。合計10万円程度となって最も費用がかかり、設置場所の確保も必要で、スピーカーの設置や配線にも手間がかかる。その代わり、楽しめるサラウンドと音質は格別で、構成の自由度も高い。
AVアンプは音声をスピーカーに出力するために必要となる。HDMIもしくは光デジタルで入力し、5.1ch分のスピーカーを繋げる。AVアンプは大型で高温になりやすく、接続するケーブルも多いため、設置場所に注意したい。
AVアンプのインピーダンス範囲内であれば、どのスピーカーを繋げてもよいが、サラウンドのためにはL、R、SL、SRに同じ物を使ったほうが、同じ音質で揃うため違和感がない。センタースピーカーは、テレビの下に置くのが一般的だ。LFEを担うサブウーファーは、とても音が響きやすいので、住宅事情を考慮して設置しなくてもよい(その場合、AVアンプでスピーカー構成を正しく設定すればよい)。
AVアンプ+スピーカーを組み合わせる場合、ケーブルなども別途用意する必要がある。
スピーカーケーブルは、AVアンプと各スピーカーをつなぐために必要となる。切断と末端加工のため、ニッパーが別途必要になる。気休めかもしれないが、左右のスピーカーに繋ぐケーブルの長さは揃えた方がよいとされている。接続した際に余った部分のケーブルは、巻かずに往復させて沿わせた方がノイズの原因になりにくい。
AVアンプとスピーカーの端子がバナナプラグに対応していれば、バナナプラグの利用が断然便利である。バナナプラグは、スピーカーケーブルの両端につなぐプラグだ。5つのスピーカーを繋ぐには、計20個の接点を繋ぐ必要があり、しかもAVアンプの裏面は端子が密集していて、とてもつなぎづらいためだ。精密マイナスドライバーで銅線を挟み込むタイプであれば、しっかり繋がる。ケーブルやプラグがショートするとAVアンプが故障する原因になるので、できればプラスチックでカバーできるプラグを選びたい。なお、バナナプラグの太さは直径4~4.5mmが一般的である。
スピーカースタンドは、スピーカーを置くための台だ。スピーカーの高さは、視聴する際の耳の位置と同じくらいがよいとされているので、高さを調整できる物を選ぼう。
液晶テレビの標準機能、もしくはサウンドバー(テレビの手前に置く横長のスピーカー)などによる擬似的なサラウンド。ステレオスピーカー(前方の左右)で擬似的にサラウンドを再現するバーチャルサラウンド技術でサラウンドを実現する。定位感(音の聞こえる方向の感覚)はリアルサラウンドに比べると弱いが、設置に手間がかからず設置面積も少なく済むのが利点。サウンドバーはテレビの手前に20cmほどの奥行きがあれば設置できる。
例えばソニーなら「S-Froce PRO フロントサラウンド」「S-Froce フロントサラウンド」「フロントサラウンド」、パイオニアなら「バーチャル3Dサウンド」などメーカーやグレードによって名称は異なるがバーチャルサラウンド機能に対応しているか、カタログの説明や仕様で確認できる。
もし手持ちの薄型テレビにバーチャルサラウンド機能がついていれば、まずはそれを有効にして、HDMIで接続したゲームを遊んでみるところからサラウンドを体験してみると良いだろう。
個人の感想にはなるが、ソニーの薄型液晶テレビ「KJ-32W700C」に搭載された「S-Froce フロントサラウンド」を有効にした状態で「スプラトゥーン」(任天堂 Wii U)を遊んでみると、音がどこから聞こえてきているのか、特に真横より前方についてはステレオ再生よりもわかりやすくなる。ゲーム開始時の広場で前方のタワーからの音が聞こえる状態で、ゆっくりカメラを回してみると聞こえ方を確認しやすい。
ただ真横より後方の音は、後方らしさを出すためか、ややこもった音に感じられる。また、真後ろの音は単にこもった大音量の音という感じになりがちである。特に、バトル中にプレイヤーキャラの真後ろでボムが炸裂したときの「ボンッ」という音だけ妙に大きく感じられる。
フロントサラウンド技術の上位版かと思われるソニーのAVアンプ「STR-DN1070」に搭載された「S-Froce PRO フロントサラウンド」の場合は、接続したスピーカー自体の表現力があることも手伝ってか、比較的後方からの音も自然に感じやすいが、やはり音がこもったように感じられる。リアルサラウンドとは、どうしても感じ方が大きく異なる。
騒音を気にせず一人で楽しみたいのであれば、サラウンド対応のヘッドフォンを選ぶのも手である。騒音を気にすることなく、大音量で楽しめる。
バーチャルサラウンドヘッドフォンでは、バーチャルサラウンドを大音量で楽しめる。ゲーム機とはHDMIでプロセッサー(ワイヤレス送信機)に接続し、ヘッドフォンとはワイヤレスで接続する。
ちなみにPlayStation 3と4専用のサラウンドヘッドフォンもある。こちらはボイスチャットも可能。PS3またはPS4のUSB端子にアダプターを接続し、ワイヤレスで楽しめる。