この文書は、現在(2023年2月時点)において各出版社から発行されている国語辞典の特徴を探り、書き記したものです。あくまでも一読者の私見ですので、書店で実物を手に取って比較されることをおすすめしますが、国語辞典を選ぶ参考になれば幸いです。
ひとくちに国語辞典といっても、様々な国語辞典がある。厳密な分類法は無いようだが、収録語数の多さや編纂意図で大まかに分けて考えることはできる。
手頃な大きさで中高生から社会人まで広く使える、一般的な国語辞典。B6判程度で1800ページ前後、収録語数が7~10万程度のものが多い。同内容で判違いの小型版、大字版を併売する辞書も多い。当ページでそれぞれ紹介する。
なお、中高生向けに作られた国語辞典もある。一般向けに比べて語数は控えめだが、そのぶん詳しい語釈を備える。概ね書名に「現代」とある。また、小学生向けに、収録語数1万6千~3万7千語程度で、子供にもわかる言葉づかいの語釈を備える辞書もある。こちらは書名に「小学」とある。(学生向け辞典は当ページでは割愛)
概ね収録語数が20万~30万程度で、分厚くて大きくて重い。百科事典の性質を併せ持ち、一般語だけでなく百科語(歴史上の人物や専門分野の言葉)を備える。小型辞典が一人一冊なら、いずれかの中型辞典は一家に一冊あってもよいところだ。現在最新の中型辞典は以下の通り。
いずれも厚くて重いが、『広辞苑 第7版』と『大辞林 第4版』は一冊にまとまっているので、使いやすいだろう。『大辞泉 第2版』は、二分冊とDVD-ROMのセットになっている。『精選版 日本国語大辞典』は他の三種と性格が異なり、50万項目の大型辞典で全13巻ある『日本国語大辞典 第二版』の内容から30万項目が選び出され、全3冊分になっているものだ。
収録語数が50万を超える、国語辞典の最高峰。分厚くて何巻もある。現在は小学館の『日本国語大辞典 第二版』のみ。中型辞典にも載っていない古語まで詳細に収録し、語釈も詳しい。全13巻あり価格も相当のため、国語の専門家向け。なかなかポンと買えるものではないが、街の図書館で閲覧できることもある。
国語辞典は優劣を付けられるものではないので、簡単にこれはいい辞書、わるい辞書とは言えない。しかし何のために使うか、何を重視するかによって、それに合っているかという見方はできるだろう。ここでは各辞書の特徴を感じやすい観点を3つ挙げる。
辞書の違いとしてまず分かりやすいのが、収録語の傾向。現在ひろく使われている和語や漢語のほかに、外来語、古語、百科語を積極的に扱うか、もしくは敢えて扱わないか。また、新しい辞書であれば、新語や新用法が収録されているかも気になるところ。
外来語(カタカナ語)は、最近よく聞く「エッセンシャルワーカー」、案外昔から使われている「ルーティーン(ルーチン)」など。
古語は、日出づる国の「いづ(出ず)」、猪の語源でもある「しし(獣,肉の意)」、やんごとないの原形「やむごとなし」など。現代語に特化し、古語を扱わない辞書もある。
百科語は、情報技術の「IPアドレス」、医学の「iPS細胞」、広告の「シズル」、1960年代の服飾「アイビールック」、1950年代の音楽「オールディーズ」など。また、一般的に流通している(していた)商標「ゆるキャラ」「着メロ」「ファミコン」など。ほかに、歴史上著名な国内外の人物「聖徳太子」「福沢諭吉」「ペリー」「エジソン」など。一般語ではないとして積極的には収録しない辞書もある。
語が載っていても探しづらければ、載っていないのと同じこと。語の見つけやすさは、オンライン辞書のような検索ができない紙の辞書において非常に重要となる。
まず、小口のインデックス (閉じた状態で見える目印) がわかりやすいか。使い慣れれば印だけの方式でも支障ないが、辞書を使い慣れていないなら「あかさ…」の記載があると引きやすい。
次に、追い込み項目 (複合語の一語目に続けて立項される項目) が目に付きやすいか。例えば「こころがけ」が「こころ」の追い込み項目になっている辞書もある。
そして検索用見出しの豊かさ。例えば古語を載せる辞書の場合、「あはれ」のように歴史的仮名遣いの見出しがあって、語釈のある項目に誘導されているか。また地域によって呼び名が違う物の扱いはどうか。例えば「大判焼き」から今川焼き、「なんばん」からトウモロコシが探せるか。
同じ和語でも、漢字の使い分けで見出し語を分ける辞書もある。例えば「とる(取る、捕る、撮る)」を見て確認できる。
巻末に漢字字典を備える国語辞典であれば、読めない漢字の部首から見当を付けて調べられる。
語釈とは言葉の説明書きのことで、いわば国語辞典のメインコンテンツ。自分が知っていて、どの辞書にも載っている語を引き比べると、辞書ごとの特徴を掴みやすい。
例えば「ニワトリ」について、キジ科の云々と学術的に説明するか、生活とこのような関わりのある鳥だと実際的に説明するか。また「桜」について、その歴史や情景に触れているか。「黒船」であれば、史実だけでなく比喩的な用法に触れているか。「こだわる」の語釈に、近年みられる「食材にこだわった店」のような厳選や追究の意味が見られるか。
古語も積極的に収録する辞書の場合、例えば「あわれ(あはれ)」に、趣深いとか可愛いといった古語としての意味が載っているか。
なお、小型辞典における語釈の順番は、先に現代の一般的な意味が示され、つぎに場面の限定される意味、最後に最近の用法や俗語としての説明がなされる傾向がある。
語釈と共に注目したいのが用例だ。用例とは、その語を使った文例のこと。言葉の使い方を示すための作例の場合もあれば、いつから使われているかわかる典拠を示している場合もある。
言葉だけでは解りづらいと思われる語には、絵図が加えられている辞書もある。絵図を載せる辞書の場合「七福神」と「宝船」のどちらかには絵図が載っていることが多い。
国語辞典で大きく誤解されがちな点がある。国語辞典は語の「定義」を示すものではない。どのような意味で使われてきたか、もしくは使われているかを専門家が調べて「説明」を示したものである。だから辞典によって説明の仕方も様々だし、改訂によって説明にも変化がある。それに、収録語の多い辞書が、収録語の少ない辞書の項目を全て含んでいるわけでもない。とりあえず最新の一冊を決めて大事に使うのも良いが、できればもう一冊、性格の違う辞書を持っておくと良い。
知らない言葉を調べるときには、辞書が複数あれば単純に項目を見つけられる確率が高まる。そして、説明の仕方や重点が異なる辞書を読み比べることで、イメージのつきやすい説明や、文脈に沿った説明に出会う確率が高まる。例えば若者のインタビュー記事を読むならば新語や新用法に強い辞書が役立つだろうし、明治時代の文学を読むならばやや古い言葉に強い辞書が役立つだろう。
一方、自身が書いたり話したりする言葉を確かめるときには、誤用や書き分けに詳しい辞書が役立つだろう。新語や新用法が載っている辞書はもちろん、載っていない辞書も見比べることで、まだ一般的ではなさそうだから別の言葉に置き換えようか、補足して使おうか、といった判断の材料にもなる。
以下、各辞書を最新版の発売が新しい順に掲げる。各冒頭に、その辞書について私見の概要を述べるので、時間が無ければそこだけ拾い読みしていただきたい。その次に「収録語の傾向」「語の探しやすさ」「語釈の傾向」の観点で細かい話を述べる。何ら学術性もなく統計的でもない、酷く歪な観点だが、各辞書の雰囲気を感じ取っていただけたらと思う。
書名 | 発行年(版) | 出版社 | 収録語数 | 歴かな | 発音表記 | 基本語表示 | 漢字字典 |
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新選国語辞典 | 2022年(第10版) | 小学館 | 93,910 | 和語 | カナ | なし | 旧字,読み(巻末) |
三省堂国語辞典 | 2022年(第8版) | 三省堂 | 84,000 | 和語 | 記号 | あり | 旧字,読み(巻末) |
明鏡国語辞典 | 2021年(第3版) | 大修館書店 | 73,000 | 和語,漢語 | なし | なし | 難読語の読み(巻末) |
新明解国語辞典 | 2020年(第8版) | 三省堂 | 79,000 | 和語,漢語 | 番号 | あり | 字義 |
岩波国語辞典 | 2019年(第8版) | 岩波書店 | 67,000 | 和語 | なし | なし | 旧字,読み,字義 |
旺文社国語辞典 | 2013年(第11版) | 旺文社 | 83,500 | 和語,漢語 | なし | なし | 旧字,読み,字義,筆順 |
集英社国語辞典 | 2012年(第3版) | 集英社 | 95,000 | 和語 | カナ | あり | 旧字,JIS,読み,字義 |
最近の社会情勢で広まった新語・新用法も収録。古語を立項するほか、図版も多く、中高生の学習用辞典としても役立つ。強く読む字が表記されたアクセント表記が分かりやすい。季語も記載。簡易な漢字情報を巻末に掲載。
通常版が他の小型版と同じ大きさで、『ワイド版』が実は標準的なB6判。よく持ち歩くなら通常版、大きな文字で読みたければワイド版を選ぼう。
「収めた語の範囲」によれば「一般社会生活用、および学習用」として「中学校・高等学校の国語科の学習に必要な基本的な古語」「日本のおもな文学作品・作家名、歴史上の基本的な事柄、国名・地域名など」「接頭語・接尾語・造語成分等の語の構成要素、また、おもな慣用句・ことわざを含む連語の類。さらに、派生語などの類。一部の方言」を収録。最終ページにある収録語の内訳によると古語は4899語、固有名詞1588語。しし(獣,肉)を立項し、出づ、やむごとなしを古語のまま引ける見出し語を立項。古語にも充分対応しており、旧来からの言葉の連続性も感じやすい。人名は、聖徳太子や福沢諭吉を載せる一方、ペリーやエジソンは無い。夏目漱石など日本の作家名はある。
インデックスは赤い目印に「あかさ…」が振られていて見当を付けやすい。漢字字典は巻末にまとまっている。見出し語の書体が、和語と外来語はアンチック体、漢語はゴシック体、と語の種類で違う。語の種類は区別しやすいが、語を探すときは若干見づらいかも。追い込み項目は赤い線で始まっており見つけやすい。
生物は、簡略な科学的説明のあと実際的が説明があり、人とどんな関わりを持っているかが分かりやすい。例えば鶏は「キジ科の鳥。古くから飼育され、卵や肉は食用」。収録語数が多い小型辞典の制約か、桜の説明は割合あっさりで、黒船も史実のみ。こだわるの語釈に厳選や追究の意は見られず、「こだわり」の項に「商品の製作や購入についての強い自己主張」とあり、やや違和感。レイアウトは、アクセント表記や語釈の番号が赤で、比較的大人しく、見やすい。絵図が豊かで、例えば気象の「前線」の図は立体的で解りやすい。
今の言葉が分かる辞書。新語にとても強く、新用法も詳しく収録。自分たちが日常で使う言葉をよく把握している辞書、という信頼感は何物にも代え難い。絵図もあり、語釈も平易だから、中高生でも親しみやすい。強く読む部分に記号が記され、アクセントの把握も簡単。[!]マークの補足を拾い読みするだけでも役立つ。通称「三国(さんこく)」。
小型版、大字版もある。他の辞書の小型版に比べると、書体が良いのか小型版でも語釈の文字が読みやすい。大字版の書名は『大きな活字の三省堂国語辞典 第八版』。
辞書冒頭の凡例に「特に、ここ五十年の間によく使われ、今後も使われるであろうことばに重点」「現代の私たちが接する機会の多いことば」とある。実際、他の辞書にある新語は当然として、新用法までを数多く収録。古語は少ない。人名は無い。若者文化や漫画由来語にも目配りし「ボカロ」や「どこでもドア」まで載せている辞書は珍しい。なお「ファミコン」は第6版(2008年)以降で削除されており語の廃れにも敏感。
小口のインデックスには「あかさ…」が振られ、さらに段ごとに印が濃く付き、見当を付けやすい。追い込み項目は、赤い丸印に続けて例えば「こころがけ」と省略せずに記載されており見つけやすい。意味が多様な和語は、例えば「とる」なら「取る、捕る、執る、…」と漢字の使い分けで見出しが分かれている。
想像しやすく、時には情景まで豊か。鶏を「たまご・肉をとるために飼う鳥。頭に赤いとさか~」と説明。桜には「散りぎわが いさぎよい」「花見の対象」と記述され、文化的側面の理解を助ける。黒船には、史実のほか「外国からの圧倒的な勢力のたとえ」とも触れる。こだわるの語釈は「そればかりを(いつまでも)気にする」のほか「つきつめて よく考える」「自分の好みを深く追い求める」を1980年代からの用法として記述。新用法の扱いも早く、例えば近年見られる「(好きすぎて全部揃える)まである」の用法を「まで」の項で説明。「的を得る」誤用説を覆す記述も。
言葉を読むだけでなく、正しく書きたいときにも役立つ辞書。デザインやレイアウトには2色刷りを活かしたきめ細かい気配りがみられ、辞書に不慣れな中高生でも親しみやすい。言葉の使い分けを丁寧に説明し、最近の用法だけでなく、明治期の古風な用法にも言及。語にまつわる多様な情報や、常用外の漢字も積極的に載せる。誤用に厳しく、間違いのない言葉選びの助けになる。絵図は無い。
2020年刊だけありSDGsやサスティナビリティーといった社会語のほか、報連相やリスケなどのビジネス語も収録。「出づ」「しし」は載り、「やむごとなし」は無いが「やんごとない」は載るので、古語も探せなくはない。百科語は「iPS細胞」「ファミコン」が無いが、そこそこ収録。人名は無い。
小口インデックスは行を赤色、さらに段を黒色で示しており見当を付けやすい。複合語も見出し語として立項しており、視線を大きく移動させずに探せる。見出し語の書体は太ゴシックで統一されている。歴史的かなづかいでの立項は無し。「大判焼き」は誘導見出しあり、「なんばん」はトウガラシの別名とあるがトウモロコシへの言及は無し。同じ和語はまとめて解説するが、意味ごとに必ず漢字を示している。和語の歴史的かなづかいだけでなく、漢語の字音仮名遣も載せる。また「辯護」のように当用漢字以前の用字を多く併記しているのも特徴。見出し語の漢字で画数が多い字は、改めてその下に大きく示されている。
使い分けに詳しく、例えば「移動」の項で「移動する/させる」の使い方の違いを記載。語により[品格]欄を設け、改まった文で使える類語と用例を示す。「的を得る」は誤用と言い切るなど、用法に厳しい印象。「こだわる」には拘泥のほかに、追求するというプラス評価の意味、物事が素直に進まないという古風な意味まで載る。「とる」の語釈は1ページ半に及ぶが、赤い帯で意味が大別されており、読みやすく理解しやすい。語釈に細めの角ゴシック体を採用しており、スマホに慣れた目には読みやすい。
語釈が時に回りくどいほど丁寧な辞書。手早い理解には向かないが、読めば確かにそうだと思わせる深さがある。評論で使いやすい、社会や政治をチクリと批判するような用例も。辞書自体の言葉遣いが専門書のような雰囲気なので、高校生以降におすすめ。絵図は無い。通称「新明国(しんめいこく)」。
通常版は赤色の外装だが、同じ内容で外装の色が違う青版、白版がある。小型版は赤色のみ(外装中央下部に【小型版】の表記がある)。大型版は『大きな活字の新明解国語辞典 第八版』。
現代語が中心だが、日常的な口語表現よりも新聞などの論説文に使われる語や用法を主軸とする。エッセンシャルワーカーの立項はないが、エッセンシャルの語釈に用例と説明がある。ルーティンはルーチンで立項。古語は「いづ(いず)」は無し、「しし」は肉と説明、「やむごとなし」は無いが「やんごとない」はある。百科語もそこそこ収録。例えば、IPアドレス、iPS細胞、アイビールック、ゆるキャラ、着メロ、ファミコンがあり、一方でシズルやオールディーズは無い。人名は無し。
小口のインデックスは昔ながらで、行ごとの印のみ。追い込み項目は、見出し語と同じゴシック体だが「―」で始まるので、注意深く探す必要がある。「大判焼き」の立項は無し(「今川焼き」はある)。「なんばん」には近畿や中部でトウモロコシと呼ぶとの説明がある。巻頭のほうに漢字索引があり、画数から漢字とその読みを調べられる。
用いる「てにをは」の説明があるのが特徴。漢字の使い分けは強調せず、[表記]として意味ごとの用字や、旧字の説明を付記する。アクセントの分析が詳細だが、示された数字を巻末の一覧で参照する形のため、把握には慣れを要する。ニワトリは「〔庭鳥の意〕卵や肉を食用にするために飼う鳥 …」と実際的。桜を「春、一面に美しく咲く…」と情景つきで説明。黒船は史実のみ記載。ツアーに巡業の意味が載っていない。一方「こだわる」の二番目の語釈に「他人はどう評価しようが、その人にとっては意義のあることだと考え、その物事に深い思い入れをする」と記述し、用例に「材料(鮮度・品質・本物の味・天然のアユ)に―」とまである。この詳しさが新明国の持ち味。紙面の色使いは大人しく、たまに2色刷りなのを忘れるほど。図版は一切なし。
シンプルで的確な語釈が特徴的な辞書。語釈の最後に▽で始まる補足説明として、慣用読みの旨や語源など多様な一口情報を掲載。ひたすら黒い文字が続く無骨なレイアウトだが、読みやすい明朝体が使われ、読書や書き物をいたずらに妨げることのない脇役に徹した作り。新語や俗語の掲載には慎重だが、最近の用法への目配りは見受けられる。絵図は無い。正統派の国語辞典という印象で、社会人が持つ一冊として最適。
序文や凡例によれば、明治時代の後半からを念頭に、日常生活で必要な外来語、文語、雅語、成句なども多く取り入れた、とある。コロナ騒動前年の発行だからエッセンシャルワーカーは無い。ルーチンはある。古語は、いづ(出ず)は無し、しし(獣)が立項され▽に「もと、けものの肉の意」に補足あり、やむごとなしは無いが「やんごとない」はある。百科語は、IPアドレス、iPS細胞、オールディーズはあり、シズル、アイビールックは無い。着メロはあり、ゆるキャラやファミコンは無い。人名は無し。
小口のインデックスには「あかさ…」が振られている。見出し語は太い明朝体(アンチック体)で見やすい。「こころがけ」も通常の見出しで立項。「いんがおうほう」は「いんが」の追い込み項目で、「―おうほう」と示される。歴史的かなづかいや別名の立項は見当たらない。「とる」はひとつの見出しで載せ、漢字の使い分けと共に意味を載せる。見出し語に単漢字が載っており、旧字、読み、意味、用例が添えられる。巻末に漢字の読み方一覧を掲載し、この表に対する部首索引、総画索引を備える。
簡潔ながら時に豊かで最近の用法まで目配りした語釈。生物は実際的に説明し、例えば鶏を「古くから飼い慣らされている~」で始める。桜の説明が豊かで、平安時代以降「花」と言えば桜を指すことが多い、散り際の潔さから武士道の象徴ともされた、とまで記載。黒船は史実のみ。こだわるの近頃の用法として「特別の思い入れがある」と説明。同社の『広辞苑』も参照しているのか「オールディーズ」を1950~60年代の英語のポピュラーソングと明確に説明している小型辞書は珍しい。
小型ながら中高生の学習用から一般利用にも耐える、多機能な辞書。2013年刊ゆえ新語がやや弱いものの、古語や人名を多く立項し、語源や参考情報などの補足も豊富。生物の語釈が学術的である等やや前時代的なところもあるが、絵図があり、単漢字は筆順まで掲載するなど、中高生の利用に配慮。
通常版の外装は青い円、小型版はピンク色の円が特徴。小さい文字が読めるなら、同型辞書で最小の小型版が便利。やや古いぶん中古書店で安く手に入りやすい。新品を書店で買う場合は、奥付に2019年以降の日付があるかを確認したい。年号の変更に対応した修正がされているためだ。
冒頭凡例で「国語の学習および日常の言語生活に役立つように」作ったとある。2011年刊ゆえにエッセンシャルワーカーはないがルーチンはある。古語に強く、「いづ」「しし(肉,獣)」「やむごとなし」を掲載。百科語は2013年刊のこのサイズにしては妥当な感じがする。iPS細胞はあるが、IPアドレス、シズル、オールディーズは無し(IP電話はある)。アイビールックはアイビースタイルで立項。着メロ、ファミコンはあり、ゆるキャラは無い。人名に強く、聖徳太子、福沢諭吉、ペリー、エジソンのほかピカソなどが載る。夏目漱石の『こころ』など著名な書名も。見出し語と並んで常用漢字2,136字、人名用漢字861字を収録し、筆順や人名読みまで載った漢字字典を兼ねる。
小口のインデックスは行ごとの印に「あかさ…」を示す。見出し語は太い明朝体(アンチック体)で統一され探しやすい。3字以上の語で始まる複合語は追い込み項目となるが、改行して「―」で始まるので見つけやすい。「こころ」のように複合語が多数の場合は「こころがけ」のように通常の見出しで探せる。「あはれ」が「あわれ」に誘導すべく立項され、古語を歴史的かなづかいで引ける配慮が見受けられる。大判焼きの立項はなく、なんばんにトウモロコシの記載は無い。「とる」は漢字の使い分けで見出しを分ける。巻末に難読語一覧を備える。
生物の説明は学術的で、例えばニワトリは「キジ科の家禽。原種は東南アジアの野鶏。…」といった感じ。桜も学術的、黒船は史実のみ。「こだわる」の第二義に「(良い意味で)細かい差異も軽視せず、徹底的に追求する」と記載。「あわれ」には古語用法が詳しく載る。例えば「とる」に中心義が設けられ「それまで自分のものでなかったものを…」と説明し、語の基本的な意味を説明する。語用法の変遷も詳細で、例えば「全然」の使われ方の変化は9行に及ぶ。レイアウトは、2色刷りながら赤色の使い方が控えめで、落ち着いた見た目。
小型辞典の大きさながら漢字字典と百科事典を兼ねた国語辞典。中型辞典のような情報量だが持ったまま引ける重さ。様々な物事の正確な概要が手軽にわかる。古語にも強く、カタカナ語も2012年刊にしては妥当な印象。絵図が多く載る。岩波と同様に▽で参考情報を示している。黒1色だが読みやすい書体。巻末付録が充実しており、国語の概要を解説した読み物もある。
序文によれば現代語を中心に、古語、一部の方言、社会語、百科項目を収録しているとある。2012年刊ゆえ新語はやや弱い。ただ「エッセンシャルワーカー」はないがエッセンシャルはある。ルーチンはもちろん、ルーティンも参照項目として立項。古語にも強く、出づ(出ず)、しし(肉,獣)、やむごとなし(やんごとない)を立項。アイビールック、オールディーズ、着メロ、ファミコンはあるが、IPアドレス、iPS細胞、シズル、ゆるキャラは無い。百科事典を兼ねるというだけあり小型辞典ながら人名が豊富に収録される。聖徳太子、福沢諭吉、ペリー、エジソンのほか、ピカソ、田中角栄、福田恆存、(スティーブ)ジョブズなども。旺文社と同じく、夏目漱石の『こころ』など著名な書名も収録し、概略が解る。
小口のインデックスは広辞苑と同じ方式で、字ごとに10ページ分だけ印がついている。使い始めはやや慣れを要するかも。追い込み項目は「―」で始まる。「こころがけ」などは通常の見出し。「あはれ」は「あわれ」の参照項目として立項。大判焼きは無し。なんばんにトウモロコシの記載は無い。「とる」は一つの見出しにまとめられ、漢字の使い分けごとに語釈が並ぶ。巻末に、部首ごとに漢字が並び6360字の読みを探せる漢字表を備える。見出し語と並んで単漢字を掲載し、旧字、JIS区点コード、JIS16進コード、読み、意味、熟語を表記。
生物は百科事典のように学術的な説明で、ニワトリは「キジ科の鳥。古くから飼育され、食肉用のコーチン種・ブラマ種、採卵用の…」と記述。桜の説明は8行に及び、情景の記述はないが用途が詳細に書かれる。黒船は史実のみ。「こだわり」は近年の肯定的な用法にも言及。「あわれ」には趣ある様子という古語用法も記載。強く読む字を示したアクセント表記あり。
明治文学にも見られる近代の文章は、古文と呼ぶには余りに新しすぎるもので、現代文と捉えるのが妥当だろう。しかし旧字や歴史的かなづかい(旧かなづかい)といった用字の違いがある。読めない旧字は、漢字の部首検索が付録にある国語辞典、もしくは漢和辞典や漢字辞典を使って、部首から調べるのが早いだろう。一方、歴史的かなづかいで書かれた和語を調べるには、現代仮名遣いに置き換えて見出し語を探す必要がある。
しかし新潮社の『新潮国語辞典 現代語・古語』であれば、「おもひ(思い)」「ゐる(居る)」「をがむ(拝む)」など主要な語の歴史的かなづかいでも見出し語が立てられている。歴史的かなづかいに不慣れでも、そのまま引けば現代仮名遣いの見出しに辿り着ける。古語と現代語をまとめて扱うため公称項目数は約14万5,000。小型辞典以上にして中型辞典以下と特殊な規模の辞書で、最新版の第二版が1995年発行とやや古いこともあり、番外編として紹介するに留めた。しかし歴史的かなづかいの現代文を読む場合には、この辞書が役立つだろう。
(判型はB6よりやや大きい。2444ページ。ISBN:9784107302120)
※『新潮現代国語辞典』とは別物なので注意。
国語辞典を比較、調査している他のサイトを紹介する。当ページで扱っていない中高生向け、小学生向けを扱うほか、当ページと異なる視点で比較しているサイトもあるので、ぜひ参考にして欲しい。