Intel NUCを使った小型パソコンの組み立て方

この文書は、インテル社が製造販売しているパソコン組み立てキット「NUC」(ネクスト・ユニット・オブ・コンピューティング)を使った、実用的な小型デスクトップパソコン(ミニPC)の組み立て方を説明しています。

Intel NUCの用途と特徴

Intel NUCを使って組み立てたパソコンは、以下の用途に向く。

インテルNUCの際だった特長は、その小型さである。設置面積はCDケースよりも小さく、幅と奥行きがそれぞれ12センチに満たない。それでいて、意外と性能が要求される今どきのウェブ閲覧や、ある程度の画像処理などの作業にもストレスのない性能と静音性を実現できる。

ただしNUCには、国内メーカー製の市販パソコンと違ってOSやOfficeアプリといったソフトウェアのほか、キーボードやマウスなども付属しておらず、別途購入する必要がある。また部品を寄せ集めて作るので、パソコンの面倒をすべて見てくれるサポートは受けられない。購入を検討する際は、予算とサポートに注意してほしい。

2023年7月12日に、インテルはNUCについて「直接的な投資を停止」すると発表した。数日後の7月19日に、NUCの事業をASUSに譲渡すると発表された。インテルNUCに関する事業を今後はASUSが行うものとみられるが、現時点では利用者にとっての特別な変化は無い。
Intel、NUC事業をASUSに譲渡 - PC Watch

組み立てに必要な経験

Intel NUCの組み立ては、いわゆる「自作パソコン」の組み立てよりも簡単ではあるが、プリンターのインクを交換するよりは難しい。以下の経験や知識があると組み立てやすく、何らかのトラブルにも対処しやすい。

NUCの選び方

Intel NUCは2012年に初代が発売されて以来、新たなCPUが開発される度に新しい製品が発売されている。NUCは新しい製品が発売されると、古い製品は品薄になり値段があまり下がらない。このため基本的には最新の製品を選べばよい。最新のラインナップはインテル公式サイトのページ「インテル® NUC 製品」で確認できる。

NUCは世代により、付属品のほか、搭載できるメモリやSSD・HDDの形式が変わる場合があるため注意したい。

2018年6月時点では以下で第6世代、第7世代のNUCを紹介していた。2022年11月現在では入手性が悪くなったため、最新の第12世代NUCを紹介する。

第12世代NUCのラインナップ概要

2022年11月時点で最新のNUCは、第12世代インテルCoreプロセッサーを搭載した「Intel NUC 12」シリーズとなる。このシリーズだけでも多数のモデルがあるが、主に以下の違いによるパターンとなっている。

上記以外の細かな違いについては、インテル製品の仕様情報(インテル製品を比較) で確認できる。

Intel NUC 12 Pro Kitシリーズ

第12世代NUCの製品シリーズにおいて「Pro Kit」は自分で組み立てるタイプとして標準的なシリーズとなる。なお他には、ゲーミング用途で大型ケースの「Extreme Kit」シリーズなどがある。

Pro Kitのモデル名は「NUC12WS」に続けて、構成を示す以下の数字や記号が続く。

モデル名 CPU 筐体 構成 vPro LAN端子数
NUC12WSKi3Core i3スリム通常なし1
NUC12WSKi30Z最小
NUC12WSHi3トール通常
NUC12WSHi30Z最小
NUC12WSHi30L通常2
NUC12WSKi5Core i5スリム通常なし1
NUC12WSKi50Z最小
NUC12WSHi5トール通常
NUC12WSHi50Z最小
NUC12WSKv5スリム通常あり
NUC12WSKv50Z最小
NUC12WSHv5トール通常
NUC12WSHv50Z最小
NUC12WSHv50L通常2
NUC12WSKi7Core i7スリム通常なし1
NUC12WSKi70Z最小
NUC12WSHi7トール通常
NUC12WSHi70Z最小
NUC12WSKv7スリム通常あり
NUC12WSKv70Z最小
NUC12WSHv7トール通常
NUC12WSHv70Z最小
NUC12WSHv70L通常2

なおamazonで購入できるモデルは極めて限られている(2022年11月時点)。PCパーツショップにも尋ねたほうが良いだろう。

家庭でのインターネットやオフィス製品利用など一般的なパソコン用途で利用するならば、Core i5で一般的な構成の「NUC12WSHi5」がオススメだ。Core i5ならば動画の視聴や画像編集、リモート会議なども円滑に行えるし、数年後まで充分快適に利用できるはずだ。

参考までに、トール型vProなし通常構成の「NUC12WSHi3」「NUC12WSHi5」「NUC12WSHi7」の仕様を以下に示す。

発売日2022年7月~9月
搭載CPU NUC12WSHi3: Core i3-1220P (PassMark平均: 15271)
NUC12WSHi5: Core i5-1240P (PassMark平均: 17554)
NUC12WSHi7: Core i7-1260P (PassMark平均: 17025)
対応メモリDDR4-3200 1.2V SO-DIMM 2枚 (合計最大64GB)
対応ストレージM.2 SSD (22x80 NVMe または 22x42 SATA),
2.5インチSATA3 6.0Gbps(SSDまたはHDD) 7mm厚まで
映像出力端子HDMI 2.1 TMDS Compatible 2つ,
USB Type-C (DisplayPort 1.4a) 2つ
音声出力端子前面: マイク入力対応3.5mmステレオミニ
USB端子前面: USB3.2 Gen2 Type-A 2つ(1つは充電対応)
背面: USB4 Version1.0 Type-C 2つ,
 USB3.2 Gen2 Type-A 1つ, USB2.0 Type-A 1つ
有線ネットワーク2.5ギガビットEthernet 1つ
無線ネットワークWi-Fi 6E (802.11a/b/g/n/ac/ax), Bluetooth 5.2
公式ページ NUC12WSHi3: インテル® NUC 12 Pro キット NUC12WSHi3
NUC12WSHi5: インテル® NUC 12 Pro キット NUC12WSHi5
NUC12WSHi7: インテル® NUC 12 Pro キット NUC12WSHi7

部品選び

実はパソコンを組み立てる上で一番大事なのが部品選びである。選んだNUCによって、対応するメモリとSSDが異なる場合があるので注意してほしい。

メモリ

第12世代NUCに対応するメモリは、DDR4 S.O.DIMM(ノートPC用のDDR4メモリ)である。誤ってDDR5やDIMM(デスクトップPC用メモリ)を買わないよう注意すること。最大64ギガバイト(32GB×2枚)まで搭載できる。

容量は用途にもよるが、第12世代NUCの能力を活かすなら合計16ギガバイト(8GB×2枚)が妥当だろう。画像や動画の編集まで頻繁に行う場合は合計32ギガバイト以上を推奨する。処理能力の向上に作用するデュアルチャネルを活かためにも、必ず2枚組を購入すること。

メモリ選びでは最低限、規格と容量に注意すればよい。メーカーやブランドにこだわることもできるが、よほど悪評のある製品でなければ問題はないだろう。第12世代NUCに使えるメモリを価格.comでリストアップしたので参考にして欲しい。

SSDまたはHDD

OSのインストールに必要な内蔵ストレージとなるSSDは、スリムモデルのNUCであれば「M.2」規格の製品を使う。トールモデルのNUCでは「SATA3 (2.5インチ ドライブ)」規格の製品を使える。

NUCで使えるM.2のSSDは、幅22ミリ×長さ80ミリの「2280」NVMe、PCIe Gen4(速度は落ちるがGen3も互換性がある)。デュアルLANではないモデルであれば、同じ幅で長さ42ミリの「2242」SATAも利用可能。なお初期世代のNUCが対応していた「mSATA」には対応しないので注意。

2.5インチベイのあるNUCには、速度より容量を重視して、SSDではなく2.5インチHDDを使ってもよいが、対応する厚さは9.5ミリまで。M.2と併用できるNUCでは、M.2にSSD、2.5インチベイに大容量HDDという構成もよいだろう。

容量は、OSやアプリのほか、データ保存を考えると最低でも128ギガバイトは必要となるだろう。2022年11月現時点で値頃なのは256ギガから512ギガバイトの製品。現在使っている容量を考慮し、価格.comで製品を選ぶとよい。

オペレーティングシステム(OS)

第12世代NUCにWindowsをインストールする場合、Windows 11を推奨する。ソフトウェアの互換性が気になるようであればWindows 10でも良いが、マイクロソフトのサポート期限には注意して欲しい。

パッケージ版のWindows 11や10は、メディアがUSBメモリなので、インストールにDVDドライブやネット接続は不要。HomeとProのどちらを選ぶかは用途と予算によるが、Windowsの管理機能を全て使いたいならProを推奨する。

インターフェイス類

本体だけではパソコンとして使えないので、以下が必要になる。安価なものでも構わない。ディスプレイ (液晶モニタ) は安いもので1万円程度からある。他は数百円から。

USBキーボードとマウスは、USB端子に製品付属の受信機を接続するタイプのワイヤレス型でもよい。ただしBluetoothタイプはWindowsが起動するまで有効にならずBIOSに入れないため、NUCには向かない。

ディスプレイはHDMI端子を備えた液晶テレビで代用してもよい。また、スピーカーを内蔵しているディスプレイや液晶テレビとHDMIで接続するなら、スピーカーは不要。

USBメモリ

組み立てる際に何かと役立つ。

組み立て工具

組み立てに最低限必要な工具は、一般的な1番と2番のプラスドライバー (ねじ回し) だけである。標準的な大きさの2番はNUCのケース裏、それより小さい1番はM.2 SSDの固定に使用する。

静電気や手油でパーツが故障することを避けるため、静電気防止手袋の利用を推奨する (気休めかもしれないが)。

ドライバソフトのダウンロード

NUCは、Windowsをインストールしただけの状態ではドライバソフトが足りず、ネットワーク(インターネット)に繋げない場合がある。既存のパソコンを使ったりパソコンを借りたりなどして、あらかじめインテルのサイトからドライバソフトをダウンロードしておくこと。ダウンロードしたら別途USBメモリなどに保存しておき、Windowsのインストール後に利用する。

ドライバは、Intelの公式サイトからダウンロードできる。

組み立て

NUCへのSSDとメモリの装着方法は、アスキーが公開している動画が参考になる。動画は第6世代NUCのものだが、最新のNUCでも大きくは変わらない。

メモリは、基板に近い端子へ先に装着する。また端子への装着は、メモリを斜め (端子の逆側が起きた状態) に差し込み、端子がほとんど隠れるまで入れてから倒す。メモリの左右にある金属のロックがカチリと填まるまで倒れたか確認すること。

NUC本体の組み立てが終わったら、キーボードやマウス、ディスプレイ、電源を繋ぐとハードの準備は完了する。

BIOSの設定と動作チェック

BIOSの設定を確認する

NUCのBIOSが初期出荷状態でおかしな設定になっていることはまず無いはずだが、念のため各種設定を確認しておくとよい。NUCの電源を入れて、Intel NUCのロゴが表示されている間にキーボードのF2キーを押すと、BIOS画面を開ける。

メモリをチェックする

装着するメモリが万が一故障していると、OSが止まったりデータを破損するおそれがある。Windows 11をインストールした後に標準搭載の「Windows メモリ診断」を使ってもよいが、OSをインストールする前に本格的なメモリチェックをしたいならば「Memtest86+」を利用するとよい。Memtest86+のダウンロードおよび解説サイトは以下を参照。

Memtest86+は特に停止の操作をしなければ何回でもメモリのチェックを行ってくれる。これは動作温度などが上がった場合の耐久テストに使えるのだが、メモリをチェックするだけならば、1回終わった段階でエラーがないことを確認できれば中断してよい。

Windowsのインストール

余計な外部ドライブを接続せずに、WindowsのインストールUSBを挿した状態で再起動することで、Windowsのインストーラーが起動する。Windows 11もしくは10のインストールは、パッケージ版のUSB3.0メモリであれば15分程度で終わるだろう。

基本的には画面の操作に従えばよいのだが、どのような画面が表示されるのかは、以下サイトの「クリーンインストールの手順」の項目も参考にするとよい。

補足: Windows 10のインストール方法

  1. 「Windows Boot Manager」と書かれた黒い画面では、インストールするOSのビット別バージョンを選べる。特に理由がなければ「Windows 10 Setup (64-bit)」(64ビット版)を選ぶこと。
  2. 「Windows のライセンス認証」画面が表示されたら、プロダクトキーを入力する。プロダクトキーはパッケージの右側に入っているカードの裏側に記載されている。
  3. 「ライセンス条項」の画面が表示されたら、「同意します」にチェックを入れて「次へ」ボタンを押す。
  4. 「インストールの種類を選んでください」の画面が表示されたら、下側の「カスタム:Windows のみをインストールする」を押す。
  5. 「Windows のインストール場所を選んでください」の画面が表示されたら、種類の欄が「プライマリ」になっているドライブを選んでから、下部の「フォーマット」を押す。それが済んだら「次へ」ボタンを押す。
  6. インストールが始まるので、しばらく待つ。USB3.0メモリからM.2 SSDへのインストールなら10分もかからないだろう。Windows 10のデスクトップ画面が表示されたら、インストール完了。

ドライバのインストール

予めダウンロードしてUSBメモリに保存しておいたドライバーソフトを一旦Windowsのデスクトップ画面にコピーする。コピーしたら、ドライバーソフトのインストーラー (拡張子が.exeの実行ファイル) を起動して、各種ドライバをインストールする。それが終われば、パソコンとして使う準備は完了する。